あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「女性」「性」がテーマの映画を観てみる!「フィギュアなあなた」(2013)の巻

フィギュアなあなた [DVD]

S原:今回は強烈です!エロが苦手な人はパスしてください!

Y木:へえ、そんなにすごいんや。

(あらすじ) 

リストラされ、ドン底に陥った孤独なオタク青年・内山。やけ酒のはてにたどり着いた歌舞伎町の廃墟ビルで、人間の少女のような美しいフィギュアを発見する。フィギュアに気をとられるうちにトラブルに巻き込まれてしまった内山は、ヤクザに殺されそうになる。これで最期かと思った瞬間、美少女フィギュアが起き上がり、まるでサイボーグのような強さであっという間に敵を始末してしまう。朝になり、気絶していた内山は、夢だったのか妄想なのか理解できないまま、フィギュアを連れ自宅へと戻った。そして、内山は少女フィギュアを“心音=ココネ"と名付け、一緒に暮らし始めるのだが…

 

S原:かなり前に「ラースと、その彼女」(2007)という映画を紹介したんやけど、覚えてる?

Y木:あーダッチワイフの映画な。

S原:そうそう。あれは巧みに性行為や性の対象としての人形の描写を上手く「外して」描写してたのよ。その雰囲気が主人公の無垢な性格や周りの人たちの優しさにピッタリと合っていて、温かい雰囲気の良い映画やねん。この映画は、その正反対。真逆やな。

Y木:エロいんや。

S原:うん。主人公が人形を見つけたとたんに、いきなり人形の性器を確かめるしな。

Y木:それは…強烈やな(苦笑)ダッチワイフってこと?

S原:たぶんダッチワイフじゃなくて、マネキンかフィギュアちゃうかな。それはええねんけど、撮り方も強烈でな。もうエロそのもの。下着をはいていないミニスカートの下半身を執拗に下からのアングルで撮る。もちろんモザイクはかかってるけど、たぶん撮影時は下着はなかったんとちゃうかな。本当にこれでもか、という感じで下半身を写す。

Y木:うわー…

S原:ぼくも、はじめは「うわー…」やった。ところが、観ているうちに確信犯やと分かる。

Y木:確信犯?

S原:要するに、主人公にとって「性器」があるかどうかが重要やねん。と同時に人形自身にとっても、性器はものすごく重要な意味がある。好きな男性(主人公)に対して、愛されたいと思うわけやからね。

Y木:人形が主人公に恋するラブストーリー?

S原:うーん恋するというかなんというか…ちょっとラブストーリーというにはイビツかもな。

Y木:とにかく人形が感情をもって人間みたいになる話なんやろ。

S原:そうそう。主人公は、自宅に持ち帰った人形と一緒に暮らす。あるとき主人公が精神的に行き詰って自死しようとした瞬間に、人形が動き出して自死を止める。主人公は、マネキンならぬ「女性」と一緒に暮らし始めて、性行為にのめりこむ。かなり激しい性行為の場面もあるけど、単純なエロさじゃなくて、なんとも言えんムードでな。即物的なような官能的なような、変態のような純愛のような不思議なアンバランスさがすごく良いねん。

Y木:へえ。ちょっと面白そうかも。

S原:すっごく面白いよ、これ。ただし完成度が高いとは言えないかな。少し迷走気味というか、もっとスムースに作れればなあ…と思う場面も多い。とくに序盤の会社で上手くいかない場面や、人形と出会う場面まではちょっとギクシャクしている。でも、全体として観れば、そんな欠点を凌駕するくらいのパワーに満ち溢れている。なんとも不思議な映画やわ。『出来は良くないけど、妙に魅かれる映画』ってあるやん。ぼくにとって、この映画がそれやな。

Y木:ほー。ヌードというか、かなり露骨なシーンが多いんやろ。ほとんどAVって感じ?

S原:ヌードというか、もう丸見え(苦笑)でも「AV」じゃないねん。やっぱり「映画」やと思う。確かにエロや性器、性行為がメインテーマやけど、主人公と人形をちゃんと描こうとしている。そのへんが、ただ女優が激しいベッドシーンをするだけの映画とは違う、というのが僕の評価やな。監督(石井隆)は絶対にそんな映画(単純にエロをみせるだけの映画)にしたくないというプライドがあったはず。

Y木:ほう。

S原:監督もすごいけど、佐々木心音柄本佑。この主演2人は文句なしにすごいっ。本当によくやったと思う。あの竹中直人の存在が薄れるくらいの、存在感やで。柄本佑はどうしようもないクズ男のくせに性欲だけは一人前な雰囲気にピッタリやし、佐々木心音は、マネキンのときも人間になったときも両方良い。美人やけどちょっとバタ臭い美人やねん。演技とかセリフとかは、観ているうちに全く気にならなくなるねん。今回ばかりは、この2人を褒めたたえるわ。2人は相当な覚悟で撮影に臨んだんとちゃうかな。

Y木:まあ褒めるのはわかるけどな、それがプロやろ。役者として食っていく覚悟があるんなら、体当たりというか、それくらいはしないと。

S原:いやいや、2人ともさすがにこの役柄には抵抗があったと思うで。それくらい挑戦的なテーマやから。とくに佐々木心音は、かなり迷ったはず。ほとんど全裸で延々と体や性器を触られるんやから。

Y木:大島渚監督の「愛のコリーダ」(1976)ってあったやろ。本番したり陰部を写したりして話題になった映画。あんな感じ?

S原:あーどうやろか。「愛のコリーダ」は少ししか観てないねん。観始めて気持ち悪くなってやめたから(苦笑)テーマの違いや評価のされ方や時代背景は違えど、俳優の覚悟は一緒かもしれん。

Y木:まあ、おまえの言いたいことはわかる。

S原:あと、監督はじめ製作陣の努力も褒めてあげたいなー。本当によくこの企画を実現させたと思う。普通(とくに日本では)これは商業ベースでは映画にできないはず。そういう意味でも、久しぶりに、映画の底力を感じたわ。

Y木:おいおい、今回はえらい肩入れするなあ。

S原:ここまでやれば、褒めるしかない。ほんまに圧倒されるで。まあ観てもらわんと始まらんけどな。

Y木:確かにそうやけど、人形と性行為か…さすがに観るのにハードルがあるなあ…(苦笑)

S原:ま、演じてるのは人間やから(笑)単純にスケベな気持ちで観てもOKやで。ともかく、不倫とか使い古されたテーマよりもよっぽど興味深いで。

Y木:最後はどうなるの?

S原:ネタバレになるけど、主人公は麻雀で人生の賭けにでて逆転勝ちをする。喜んで帰る途中で、街でマネキンそっくりの女性(人間)に出会う。交通事故に合いそうになる。そのあと、主人公は帰宅すると、マネキンがいない。がっかりする主人公…

Y木:あー可哀そうに…

S原:でも、どこからかヘタウマな歌声が聞こえる(ここがまた微妙に上手くない)。屋上に行くと人形がいて歌っている。人形と主人公が不思議なダンスをする。ここがまた変態と純粋さの融合した場面で印象に残るねん。いつのまにか人形と結婚式の場面になって、みんなが祝福してくれる。主人公にとっては夢のような幸福な場面になる。ハッと気づくと、実はその幸せな場面は、主人公が死ぬ瞬間(交通事故)に走馬灯のように見た幻影だったかも…という演出になる。最後は、交通事故のあと主人公が家に戻る。そこには人形がいる。ここだけは佐々木心音じゃなくて本当のマネキンを使っているねん。だから、もともとマネキンのままだったのか、一時期でも人間になったのかはわからないようになっている。主人公はマネキンに話しかける。マネキンは「返事」をしたが、それは主人公の妄想なのかどうかはわからないまま、映画はおしまい。

Y木:へえ。そういう終わりか。

S原:さあみなさん。評価真っ二つの異色作と思いますが、一見の価値ありです。何度も言って申し訳ないけど、出来は良くないです。矛盾もあるし、つっこみポイントだらけです。お金もかかっていませんので、若干チープさも漂います。でも観ているとそんなものはどうでもよくなります。全く受け付けない人もいる一方で、ぼくみたいに鑑賞後に、ずっとザラザラした印象を持つ人もいるはずです。とにかく、今回の映画は強烈なので、みなさん、ぜひチャレンジしてください。むしろ女性のほうが興味深く観れるかも、ですよ~!