S原:さあ、今回はこれ!
Y木:うわー、タイトルからして終わってるぞ。
(あらすじ)
別居中の男(チャーリー)が、気分転換に車でリノに向け出発する。途中、車が故障して立ち往生している男を同乗させてやるが、彼は自分で人殺しである事を、告白する。 怖くなったチャーリーは、男を置き去りにして立ち去るが・・・。
S原:昔、映画を好きになったころ、「ヒッチャー」(1986)を観て、「うわ、これはおもろいなあ」と思ったのよ。
Y木:ルトガー・ハウアーが追いかけてくるやつやろ。今思えば、いかにも80年代なんやけどたしかに面白かった。
S原:ルトガー・ハウアーはええよなあ。あのクセのある感じがたまらん。「ブレード・ランナー」(1982)は超有名やし、「ナイトホークス」(1981)「レディホーク」(1985)と通好みの映画も出てる。何気なく珍作SF「サルート・オブ・ジャガー」(1989)なんかに主演しているのも親近感湧くよな。マッドマックスみたいな荒野で、楽しそうに鎖鎌をビュンビュンふりまわすねんで(笑)
Y木:本人は触れられたくない過去やろ。そっとしておいてあげて。
S原:今回は、その名も「ヒッチャー2004」。もちろんルトガー・ハウアーはでていません。バッタもんというか亜流というか。
Y木:それでどうやった?
S原:いやあ、なんとも言えん映画やった。
Y木:いつも通りのB級か。
S原:出来が悪いとかじゃなくて…えーとですねえ、ヒッチャーの面白さって、『どこにでもいるような普通の人間が、たまたまヒッチハイクを拾ったばかりに怖い目にあう』『こっちは悪いことしてないのに、エライめにあう』というところやろ?
Y木:そやな。
S原:この映画の主人公は、まず『どこにでもいるような普通の人間』じゃないねん。
Y木:ん?
S原:主人公は、中年男性でちょっとお金を持ってそうやねん。妻とは不仲で別居中。でも、まだ妻に未練がある。なんで妻が出て行ったのか説明はない。
Y木:べつに、どこにでもいるオッサンやん。
S原:ところが、かなり癖のある人物でな。休暇をとって、旅行先(リオ)に行くねんけど、ギャンブルがやめられないみたい。それもギャンブルのドキドキが好きとかじゃなくて、単に楽して金儲けをしたいだけ。欲望丸出し(笑)
Y木:えー、なにそれ。
S原:運転中も妻に未練たらたらで、何回も留守番電話に「いるんだろ?」「頼むからでてくれ」「声が聴きたい」「別れたくない」と泣き言を言うねん。
Y木:ま、それだけ奥さんのことが好きってことやろ?
S原:いーえ、違います。だって、立ち寄ったバーで女性を口説いてすぐにチョメチョメしてたもん。
Y木:おいおい。
S原:そのくせチョメチョメした後、女性からお金を要求されたら、「金を払うなんて聞いてないぞ!」「ちょっと高いだろ!」って怒るねん。
Y木:えー性格悪いなあ。
S原:やろ?こういう癖のあるやつが主人公。そいつが、ヒッチハイクの若い男を拾うことになる。
Y木:あーここから怖い体験するわけやな。若い男が変質者というのが分かってきて…という展開やろ?
S原:いいや、べつに若い男はそんなにおかしくないねん。
Y木:なんやねん、それ。じゃあ、べつに怖がることないやん。
S原:一応、若い男が「いま、人を殺してきたんだ」とか言うから、だんだん主人公は気味悪くなる。でも、気味が悪くなる原因ってそれだけやで?別に拳銃をちらつかせる、とかもないし、基本は会話してるだけ(笑)「人を殺した」って言うのも冗談かもしれんし、主人公は普通に接してたらええんとちゃうの?そう思わん?
Y木:おれに聞かれてもしらんがな。
S原:この主人公は、なぜか不自然なまでに恐怖を感じる。観客が理解できないまま、勝手に興奮して、結局若い男を置き去りにして車で逃げ去る。しかも置き去りにするときに「ファーーック!おまえみたいな奴は、一生そこにいろ!」と叫ぶ。べつに主人公には迷惑をかけてないのに(笑)
Y木:ひどいな。
S原:しかも、若い男が大事にしていた荷物を、車から放り出して「ざまーみろ!」。
Y木:最低なやつやん。
S原:最低やで。こんな主人公に感情移入できません。
Y木:それで、そのあとに逆恨みした若い男がストーカーみたいに追いかけてくるんやろ?それが見せ場とちゃうの?
S原:うん。でも主人公の性格が悪いから若い男が追っかけてきても、全然怖くない。むしろ若い男を応援してしまう(笑)
Y木:それってわざとちゃうの?変化球というか。
S原:そうなんかなー。でも、なんか変やねん。というか下手やねん(笑)
Y木:最後はどうなるの?
S原:どんでん返しがある。偶然ヒッチハイクで出会った男は、実は別居中の妻(と愛人)が頼んだ殺し屋やったのよ。夫(主人公)の保険金狙いだとわかる。
Y木:それで主人公どうするの?
S原:SMに目覚めます。
Y木:は?
S原:ほんまやねんって。殺し屋に向かってニヤニヤしながら「おまえに暴力を振るわれて、かえって気持ちよかった」「いままで、こういう暴力は避けていた」とか納得の表情で長々と話す。「むしろ感謝するよ、ふふふ」。
Y木:ふふふ、じゃねえ。じゃあ、主人公と殺し屋は仲良くなるんか?
S原:いや、そのあとに主人公が急にキレる(笑)「おれは死なないぞ!」「かわりに、おまえが死ね!!」って怒って、若い男を殺す。しかも可燃性の液体をかけて体ごと燃やす!
Y木:ムチャクチャやがな。
S原:自分の身分証明書を死体(殺し屋)のポケットに入れて、自分は死んだことにする。今後は別人になりすまして生きるのです。
Y木:適当な設定やなあ。
S原:さらに、これで勢いづいた主人公は、ついでに妻と愛人も殺す!
Y木:どうやって?
S原:小包で時限爆弾を送りつける!妻と愛人を家ごと爆破!(笑)
Y木:郵送で爆弾!なんかスゴイな。
S原:最後は、カジノで女性とイチャイチャして、「今晩、チョメチョメするかい?」とニヤリとしておしまい。
Y木:なんか……ちょっと面白いような気がするぞ。
S原:いや面白くないよ、こんな映画。演出に切れ味があったら、もっと良くなったと思うけど、まあ珍妙な映画やったわ。
Y木:あー結局はダメなのね。
S原:さあ、みなさん。いつものB級映画とは一味違うような気がしますが、たぶんそれは錯覚でしょう。感情移入できない主人公、しょぼいストーカー、とってつけたようなどんでん返しの3点セット。これはもうマストバイするしかないでしょう!