あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

酷評されている映画を観てみる!「R100」(2013)の巻

R100 [レンタル落ち]

S原:今回は、有名なこれですよ。

Y木:松本人志監督か。おれ、「大日本人」(2007)だけ観たで。

(あらすじ)

笑いのカリスマ・松本人志による第4回監督作。SMクラブ「ボンデージ」に入会した実直なサラリーマン・片山は、日常生活の中に突然現れる女王様たちにより味わったことのない世界を体験する。だが、プレイの内容は次第にエスカレートしていき…。

 

S原:「大日本人」はどうやった?

Y木:もう忘れたけど、あーテレビとやってることは同じやなあ、と思ったな。

S原:それは、この映画も同じかもな。とにかく松本人志監督の映画はどれも評判悪いねん。とくにネットではボロクソに書かれてる。

Y木:そうみたいやな。

S原:当時ちょっと観ようかなと思ってたけど、あまりの低評価にいままで敬遠してたんやけどな。ついにワゴンコーナーで出会ってしまって観ることになってしまった。

Y木:それで、おまえはどうやった?

S原:じつは結構楽しめた。本当に期待値が底辺まで下がっていたからやろうけどな。

Y木:よかったやん。おもろかったのね?

S原:いや、おもろくはない!(キッパリ)

Y木:なんかこの会話パターン、多いなあ…

S原:うん。まあネットの評判通りやな、とは思ったで(苦笑)でも、ちょっと良いところもあったけどな。

Y木:具体的に良いところって?

S原:まず色調が抑えられていて、なかなか良い世界観になってると思う。遊園地みたいなところで、SMクラブ(?)の説明を受ける場面はユニークやったし、女優陣はボンテージ姿でなりきっていて、ここも良かった。テンポもそんなに悪くないと思うで。

Y木:へえ。上のあらすじを読むと、撮り方次第では面白くなりそうやけど。

S原:ストーリー自体はベタやと思う。松本人志は映画監督として、よくインタビューとかで「映画を壊したい」と言っていたから、壊し方が上手くいかんかったんかな。

Y木:映画を壊すか…この人、いままでも映画を撮っているやろ。過去に上手に「映画を壊した」ことってあるの?

S原:ない。(キッパリ)

Y木:あかんやん。

S原:だから評価が低いんやと思う。単純に面白くないし、アバンギャルドでもない。すこしシュールというには、松本人志というタレント性が邪魔している。

Y木:なるほどなあ。それにしてもネットで酷評って…この映画ではどのへんが叩かれてるの?

S原:ざっと整理すると…

1 訳が分からない (ストーリーが破綻している)

2 SMシーンが凡庸 (ムチで叩くなど、そのままの演出がある)

3 笑えない(既存ネタを使って外して、新しいネタも外している)

4 隠喩・暗喩がある(らしい)が、失敗している。(それが余計に腹立たしい)

5 豪華な俳優陣の無駄遣い (そもそもSM=ボンテージ嬢という発想が陳腐)

6 前半は退屈。後半は意味不明 (どんな映画を目指したのか、製作の意図が不明)

7 監督の自己満足で作っている (しかも理解できない観客を小ばかにしている) 

8 この映画自体が、「100歳の監督が作った老人映画」であるというメタ構造がダメ (はじめから、批判や低評価に対する防御をしている)

ざっとこんな感じかな?

Y木:ほんまに酷評やな。

S原:とくに、物議をかもしだしたのは、8やろうな。映画の中盤ででてくるメタ構造で一気についていけなくなるねん。それが狙いといえば、その通りなんやけど。たしかに、必要な設定・場面とは思えんなあ。

Y木:ふーん。まあ、映画としては大したことないってことね。

S原:もうかなり前の映画やし、大半の人は話題にもしないと思うけど、観た人は「面白くなかった」と覚えてると思うで。

Y木:ひどいなー。さっき、おまえは少しだけ褒めてたやん。

S原:あくまでぼく個人の見解やけど、松本監督は『映画の旨味』みたいな部分を捨ててしまっていると思う。

Y木:映画の旨味?

S原:ビールで例えると、「コク」と「キレ」ってあるやん。松本監督は「キレ」を意識するあまり「コク」を逃してるような気がするねん。

Y木:コクとキレか。

S原:お金をかけた名シーンとかもえええねんけど、映画を観てたら「お!」と思う瞬間ってあるやん。普通の場面、例えば主人公が歩いてるだけやけど好きとか、あのときの俳優の表情が忘れられないとか、カメラがスーッと横移動する瞬間がたまらんとか。

Y木:あー映画ならでは、みたいな?

S原:そうそう。映画を作る監督としての「こだわり」といえばええんかな。ちょっとした何気ないことにその作品の魅力を感じたりする瞬間ってあるやろ。カメラワーク、キャスト、特撮、編集、セリフ、場面、小道具、衣装、音楽なんでもええんやけどな。松本監督は「お笑いのプロとしてのこだわり」はあっても、「映画監督としてのこだわり」がないまま映画を作るから、観客はすごい薄味に感じるんとちゃうかな。

Y木:薄味かー。

S原:職人がこだわってビールを作ったけど、ほぼ自分にしかわからない「良い味」がする…会員制の高級小料理屋ならそれもありかもしれんけど、ビールは大衆向けの飲み物やからな。やっぱり、飲んで「あーおいしい」というのが前提とちゃうやろうか。だから、この映画を観た人は「せっかく映画を観にっているのに」「こんなもんか」「やっぱ映画を作る才能はないなー」という気持ちになるんやと思う。鈴木清順とかデビット・リンチとかルイス・ブニュエルとかもメチャクチャな映画作るやん。でも、たぶん彼らは自分の好きな『映画像』みたいなものがあると思うねん。松本監督には、自分の好きな『お笑い像』はあっても『映画像』はないやと思う。

Y木:要するに「映画」じゃなくてもええやん、と?

S原:そうやな。お金のかかったシュールなお笑いコントビデオとどう違うのか?という話かもな。それでも、これを「こんなんは映画じゃない!」「もう二度と作るんじゃねえ!」と排除するのもどうかと思うで。こういうのもアリやと思う。どっかで「化ける」可能性もあるわけやし。やっぱり個性としては稀有やし。

Y木:うーん……

S原:さあ、みなさん。有名な割になんとも言えない珍妙な映画です。いつものテレビの笑いを期待してはいけません。監督の個性が充満しているのは間違いありませんので、変な映画だと覚悟すれば十分に楽しめるはずですよ。意外とワゴンコーナーには置いていないので、みつけたらゲットです!そして、1回観たら十分なので、物好きな友達にあげてくださーい!