あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

酷評されている映画を観てみる!「亡国のイージス」(2005)の巻

亡国のイージス [DVD]

S原:ほとんど褒められない映画シリーズ、 今回はこちらですよ。

Y木:おお、当時は結構話題になった映画とちゃうの?

 (あらすじ)

海上自衛隊イージス艦いそかぜ」がテロリストに占拠された。人質は首都・東京!

副長の宮津2等海佐は、東京湾沖で訓練航海中に某国対日工作員のヨンファと共謀の上、艦長を殺害し「いそかぜ」を乗っ取ったのだ。彼らは乗務員を強制的に退艦させ、日本政府に宣言する。「現在、本艦の全ミサイルの照準は、東京・首都圏内に設定されている。その弾頭は通常にあらず…」彼らの手にはわずか1リットルで東京を壊滅させる特殊兵器(GUSOH グソー)があった。防衛庁情報局(DAIS)のメンバーはじめ首相官邸、政府高官らは事態解決にあたるが、最新鋭の防空システムをもつイージス艦いそかぜ」に対して、突破口が見いだせない。そんな中、「いそかぜ」の先任伍長の千石はたった一人でテロリストと対峙しようとしていた…!

 

S原:これはなあ…ちゃんと撮影してるし、悪くないはずなんやけどなあ。

Y木:あかんかったのねえ。

S原:観終わった後に、激怒したりするほどひどくない。でも、どこか空しさを感じる。

Y木:だってこんなストーリーやったら、ブルース・ウィリスとかスティーブン・セガールとかの映画と一緒やろ?

S原:基本的にはアクション&サスペンス映画なんやけど、裏テーマとしては大人向けに設定してるねん。国家とか戦争とか専守防衛とか軍の在り方とか、今の日本が潜在的に抱えている問題に挑んでいる……はずなんやけどな。残念ながら、全然深みや重みは感じないなあ。「大人の鑑賞に堪えない」というのか「幼稚」というのか。

Y木:手厳しいな。

S原:いや、ちゃんと出来てるねんで。最後まで観ることが出来る。起承転結もある。でも、最後まで観終わったときに「あー面白かった!」とは言えない。「なんだかなあ…」と感想になってしまう。

Y木:勝手に期待して、勝手に失望してるだけやん。

S原:そうなんやけどな。まあ説明的な台詞は、目をつむる。特に前半は仕方ないと思う。このタイプの映画は、観客がすぐに状況が理解できないと、面白くないから。でも、どういえばええんかな、簡単に言うとハラハラドキドキが全くないねん。

Y木:そうなんや。

S原:だってほんまにイージス艦をジャックされたら大問題やん。こういう映画って「本当に起こったら、さあどうする!?」という緊迫感を出さなあかんやろ?

Y木:そりゃな。

S原:でも全然現実味がない…テロリスト側は、東京を攻撃すると脅す。一方の政府側も、いよいよイージス艦を(乗組員ごと)自らの手で沈めないといけないというギリギリの判断に迫られる。だけど、映画全体がゆるいムードですすむから、「どうせ撃たへんねやろ」「どうせ寸前で回避するんやろ」と思いながら観てしまう。そして実際、その通りになる(笑)

Y木:それはちょっと…

S原:原作ではもっとリアルに緻密に描かれているらしい。映画化するときに全部リアリティをごっそりと削ったんやろうな。

Y木:リアリティを削るって、あかんやん。

S原:それを補うために、有名な俳優を並べたんかもな。勝地涼は良かったし、真田広之佐藤浩市もまずまず。でも中井貴一とか寺尾聡はすごい浮いてるねん。ミスキャスト以前に、なんか中井貴一と寺尾聡がそこに立っているとしか見えない。

Y木:いつものことやん(笑)

S原:あとは、やっぱり「あれ?」「なんで?」「おかしいとちゃうの?」という場面が多い。たとえば、銃撃戦での血糊が、小学生の絵の具みたいな色やねん。もう少し工夫は出来なかったんやろか…あとは、ときどき登場人物たちの回想シーンがあるけど、メインストーリーには関係ない(はず)。意味深に野球場をゆっくりと歩く工作員の場面が、さも重要なように挿入されるけど、どんな意図があるのかまったく理解できない。イージス艦の舟艇に穴があくけど、沈んだりしない。中井貴一が棒読みで「おまえたちは、いつになったらこれが戦争だと分かるのだ?」と日本人に説教する場面では、ミキプルーンのCMと全く同じ口調。きわめつけは、海中でお互いに戦っている男女(敵同士)が、急に水中でキスをするねんで!ダチョウ倶楽部か!

Y木:何それ?意味わからん。

S原:こっちのセリフやっちゅーの。撮影現場でだれも止めんかったんかいな。「監督、ちょっと不自然ちゃいまっか?」「戦っている者同士が、急にキスしたら変でっせ」と。あんまり気になったので、後でネットで調べたら、原作ではちゃんと意味があるらしい。他にも小説ではいろいろと丁寧に描かれてるみたいやけど、映画だけ見ても全然わからん。

Y木:それは演出が悪いんやろ。

S原:そうなんやろな。国家を揺るがすような大仰な話やで。もっと上手に大風呂敷を広げてくれって。

Y木:大風呂敷じゃなくて、タオルやったと?(笑)

S原:そうそう。それも小さめのタオル(でもちょっと高くてキレイなタオル)を広げているだけ。「これ、本物のタオルでっせ!」とドヤ顔されてもな(笑)とにかく全体的に大人しくて、こじんまりしてる。政府高官のやりとりも銃撃戦も、なんか紙芝居をみてるみたいやねん。

Y木:面白くなりそうな題材やけどな。 

S原:マンガ的なストーリーやけど、リアルな背景もあるから、いくらでも面白くできるはずなんやけどな。何が悪いんやろ?企画?演出?脚本?製作段階でいろいろと横やりがあったんやろか?

Y木:さあな。

S原:今回は、ハリウッドみたいにお金がかけられないという言い訳はしてほしくない。実際、この映画では本物のイージス艦で撮影してるんやから。

Y木:本物ならでは迫力はないの?

S原:少しあるで。でも船内のアクションシーンよりも、真田広之イージス艦の甲板のうえで座っているシーンのほうが印象に残ってる…(苦笑)本物とかリアルさ云々は置いておくとしても、この映画では一番肝心なところで、逃げてるねん。

Y木:肝心なところで逃げてる?

S原:犯人(中井貴一、寺尾聡たち)は第3国のテロリストなんやけど、それは「北朝鮮」やねん。なのに、なぜか北朝鮮というという言葉を使わないようにしてるねん。ここが一番不自然。原作ではちゃんと書いてるらしいのに。

Y木:なんで、北朝鮮って伏せてるの?

S原:大人の事情なんやろうな。でも、これ観た人全員が「テロリストが悪いやつらなのは分かった。日本が悪いとか隠ぺいしてるとかいう主張も分かった。えーと、それで?こいつらってどこの国の人?」って突っ込むという(笑)だって、それぞれの国によって、日本に対するスタンスや距離感や感情が全然違うやん。どこのだれかわからん人に「おまえのせいだ」「おまえが、おれたちにヒドイことをした」「おまえたちは平和ボケしている」と説教されてもなあ…

Y木:なるほどー。

S原:映画が面白ければどんな思想でもええねん。こういう映画では、正面からテーマに向き合わないといけないのに、いろんなところに気を遣って、すべてに中途半端な出来になっている。こうなってしまうのが、日本の映画界の運命やろか…

Y木:あれちゃう?初めて本物のイージス艦を利用した本格的な映画!ってことで監督も製作会社も、ある程度満足してしまったんとちゃうの?

S原:そのわりには、最後イージス艦が沈む場面は、模型とかCGやったけどな。しかも、すごくチープやし…(苦笑)

Y木:じゃあ今回は、「前評判通りのダメな映画」ってことやな?

S原:それが結論でござる。はあー…みなさん、たぶんテレビ放映もすると思いますので、ちょっと観て下さい。つまらんと思えばチャンネルを変えてもらって結構です。だって、後半にいくにつれて腰砕けになりますから(笑)え?ワゴンで見つけたら、どうするって?そんなことは自分で考えて下さーい!

Y木:おいおい、無責任すぎるやろ…(ため息)