S原:今回から、ワクワクしたけどガッカリした映画をとりあげます。
Y木:ということは、いままでみたいに誰も知らんような映画というよりは、ちょっと有名やけど出来が悪いという映画やな。なんかそれって、結構たくさんの人が取り上げてるのとちゃうの?
S原:はい。でも、こういう映画はワゴンセールでよく出会うので特集しますよ~。
(あらすじ)
リッチで高慢なマダム、アンバー。ある日ボートの事故で、世話係の船乗りジュゼッペと共に、無人島に漂着する。金も権力も通用しない中で立場は逆転、彼女はかつてない屈辱を受ける。だが、やがて身分も年齢も超えた真実の愛が生まれ・・・。
S原:これは…以前にみたんやけど、またワゴンコーナーで再会してしまった…以前に観たときは、こんな珍作はもう一生観ることはあるまい、と思っていたのに、また観てしまった。
Y木:嫌やったら、観んかったらええやないか。
S原:知らないうちに気が付くとプレーヤーにDVDをセットしてた。自分でも何故かわからない…
Y木:もう病気やないか。要するに、しょうもないのに2回も観たんやな。
S原:そうでござる!この映画はですねえ、マドンナ主演、当時の旦那ガイ・リッチー監督。「流されて…」のリメイク。要するに、金持ちの女性と貧乏な船乗りが無人島につくと、関係が逆転する…というよくあるパターン。それはええねんけど、とにかく珍妙な描写の連続でな。いままでこのブログで取り上げた映画のなかでは、格段に製作費もかかってるんやけど。
Y木:そりゃマドンナ主演映画やからな。
S原:それでこの映画の出来やからなあ…試写会のあとにスタッフたちは、こんな会話してたらしいで。「おれたち、頑張って作ったのにこんな出来かよ?」「参ったよな」「ほんとにな」「これってさ、骨折り損のくたびれ儲けってヤツじゃね?」「だよなー」「まあ、マドンナのパイオツを見れたのは儲けもんだったけどな」「あーありゃ、良いパイオツだったよな」 「HAHAHA!」
Y木:おまえの妄想、キモイわ。
S原:しかしなあ、そもそも、なんでマドンナと結婚しようと思うのか、まったくわからん…
Y木:セクシーやからとちゃうの?
S原:自分の嫁さんにセクシーさを求める?毎日、興奮するんか?結婚したら、愛なんて冷めるねんで!ただの同居人や!買い物にいくたびに、あんたは儲けが少ないから、牛肉も買えないって愚痴られるねんで!(怒)
Y木:そりゃ、おまえの家やろ!
S原:あー、ガイ・リッチーはマドンナに出会う前は、ええ映画を撮ってたのになあ。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998)なんて、ほんまにおもろいねんで。ああ、あの稀有な才能をすべてマドンナに吸い取られてしまった。まるで、アメリカ版大竹しのぶやなあ…ガイ・リッチーは、もう鯵(あじ)の干物みたいになってしまった。
Y木:干物扱いか、ひどいな。
S原:ガイ・リッチーって、もっと頭の良い人やと思ったんやけどな。
Y木:マドンナと結婚する時点で、オツムは弱いやろ。
S原:結局、離婚してるしな。離婚するときも、マドンナに「わたしの稼ぎよりも少ないくせに!」と言われて、涙目になって黙ったらしいで。
Y木:適当なことを言うなって。訴えられるぞ。
S原:それにしてもなー(ため息)なんで、こんな映画を撮ったのやろ?だれが喜ぶんかな。どう思う?
Y木:さあな。無人島映画ファンかな?
S原:ノー。
Y木:マドンナのファンかな?
S原:ノー。
Y木:やっぱりヒット作で儲けを出したい出資者とか映画会社かな?
S原:ノー、ノー、ノー!
Y木:なんやねん、うっとおしいねん。
S原:これだけ誰も喜ばない映画っていうのも珍しいで。この映画で、ガイ・リッチーはキャリアに傷がついたし、映画会社は赤字をだしたし、マドンナはしょぼい女優と決定したし、観た人は気分が落ち込むし(笑)
Y木:好き放題ボロクソに言ってるなあ。無人島の景色はキレイなんやろ?
S原:そんな景色なんか、ネットでいくらでも見れるやん。
Y木:そんなことを言ったら、なんでも話が終わるがな。ちょっとくらいはええ所もあるんやろ?
S原:うーん…この映画に出演したときは、マドンナは40代半ば。たしかにキレイやで。合コンにきたら、人気あるやろうな。
Y木:合コンって。
S原:でもな、これは映画やねん。役柄もあるし、顔のアップも撮られるねん。小じわだって映るねん。なんで、こんな役を引き受けちゃったんだよー、マドンナアア!
Y木:うるさいねん。
S原:監督が夫、主演は嫁さん、オーケーやねん。公私混同でもええねん、映画が面白かったら。伊丹十三の映画に、宮本信子がでても別に気にせえへんやろ?
Y木:おれはどうでもええけどな。
S原:いくら旦那が「どや?おれの嫁はん、色っぽいやろ?キレイやろ?ナイスバディやろ?ええやろ?おれは毎日、一緒にお風呂にはいってんねんで」と自慢されても、観客は冷めるだけやがな。
Y木:お風呂って。
S原:いままで散々、過激なヌードになっているのに、きれいな海岸で横たわるショットをみて、どうしろちゅーねん。
Y木:わかったわかった。肝心の映画の話をしてくれ。
S原:まずスートーリーが破綻している。高慢な女性と下劣な船員が、無人島にいけば、関係が逆転してしまう、ありきたりなストーリーやけど、それには演出が要るやん。男が野獣のように女性を支配するとか、懸命に生き延びるために嫌々でも力をあわせるしかないとか、野蛮な男とバカにしていた女性が段々と見直していくとか。なんでもええやん。要するに、無人島に行ってからの逆転の関係とそれによる心変わりを描いてもらわないとな。逆に、べつに心に変化は起きず、あくまで強情を張る女性という設定でもええねんで。要するに、無人島に行ってからのドラマをちゃんと作れってこと。
Y木:一応ドラマはあるんやろ?
S原:あるよ、でも意味不明で説得力がないから、こっちはどうすればええんかわからん。例えば、無人島に着いたら、雨風をしのぐ場所が要るやろ?
Y木:そりゃそうや。
S原:驚くなかれ!なんと、無人島に家があるねん!山の中で男がみつけるねん。「こりゃ、ラッキーだぜ」って。
Y木:ラッキーって…
S原:観客は置いてけぼりです。しいていうなら「あー、良かったね、寝る場所が出来て…」ていう感想が起こるのみ。
Y木:どんな感想やねん。
S原:しかも、この家でマドンナがきれいな衣装をきて踊って歌いまくります!これは、男の妄想やけどな、命からがら無人島に辿り着いたのに、なぜ一緒に助かった女性のオンステージを妄想するねん?まだ、男が女を襲おうとするほうが自然やろ。
Y木:いや、そういう乱暴なシーンは撮りたくないんやろ。
S原:そうやろうけどな。あまりに堂々と不自然な展開やから途中で不安になるねん。「もしかしてこれって普通のこと?これってぼくだけが世界の常識から外れてるんかな?こういうのがいまの世界のトレンド?」って
Y木:嘘つけ。
S原:そして突然、心変わりするマドンナ。いままでの高慢ちきな女性から、変身します!さてここでクイズです。その理由はなんでしょう?
Y木:男の野性味に魅了された?
S原:ノー。
Y木:意外な優しさに胸キュン?
S原:ノー。
S原:ノー、ノー、ノー!
Y木:うるさいわ、もう。
S原:理由は……ありません。
Y木:なんじゃそれ。
S原:ほんまにマドンナがなぜ心変わりをしたのか説明はないねんって。しかも、心変わりするシーンがすごい。突然、マドンナが男の前に這いつくばって、足を舐める!
Y木:えー…
S原:これ、ほんまです。あの田嶋陽子が観たら、激怒必至!
Y木:あんな奴、激怒したってええわ。それで、どうなんの?
S原:あとは、2人でやりたい放題。文字通り「やりたい放題」やな。ウヒヒヒヒ。
Y木:下卑た笑いかたやな…
S原:海岸でチョメチョメ、夕日をバックにチョメチョメ、洞窟でチョメチョメ、朝日をバックにチョメチョメ、海中でチョメチョメ、もういたるところでチョメチョメ祭りです!
Y木:AVか。
S原:いやAVみたいに、男性目線で楽しめるならそれもええねんけど、そういうのでもないからなあ…まー、文字通り2人でいろいろ好き放題やったあとに、結局は救出されるねんけどな。助け出されてからが、もっとひどい。
Y木:これ以上ひどくなるんか。
S原:マドンナの旦那は金持ちやから、感謝の気持ちだと船乗りに大金を渡すねん。船乗りはマドンナを本気で愛しているし、プライドもあるから追い払うねん。
Y木:そりゃ、男としてはそうやろうな。
S原:ところが、こっそりお金は受け取るねん。
Y木:なんやねん、プライドないやないか。
S原:でも違うのですよ、あなた。そのお金は自分のために使うのではありません。
Y木:善意の寄付とかするの?
S原:いーえ、マドンナのために指輪を買うのであります!
Y木:えー、マドンナの旦那からもらった金で、マドンナにプレゼントを買うって…ちょっとそれはどうかな…
S原:めんどくさいから省略しますが、なんだかんだあってマドンナと船乗りはお互いに愛し合っているのに、すれ違います。最後はヘリコプターにのって去っていこうとするマドンナを船乗りが追いかけます!さあ、どうなる?追いつくのか?2人は結ばれるのか?
Y木:どうでもええわ。
S原:さあどうなる…?いやいや心配ご無用です。だって、ヘリコプターには人間は追いつきませんから、ネ♡
Y木:…(無言)
S原:当然、男は置いてけぼりです。茫然と立ち尽くす男。そしてマドンナに向かって絶叫します。スローモーションです。渾身の魂の叫びです!
Y木:一応、ラストっぽいやん。マドンナは気付くの?
S原:いーえ、気づきません。だって、ヘリコプターの音がうるさくて、聞こえないから、ネ♡
Y木:…(茫然)
S原:指輪をなげる男。そして、空に向かって指輪がキラリと光って、そのまま星になります。おしまい。
Y木:……ほんまにそんなラスト?
S原:ほんまです。
Y木:たしかに聞きしに勝る珍作やなあ…(ため息)
S原:それなりに有名で、ここまでぶっとんだ映画は珍しいです。
Y木:なんか今回は聞いてるだけで疲れたわ。やたらと長いし…(ため息)
S原:観ればもっと疲れますよ、うふふ。
Y木:うふふ、ちゃうわ。
S原:さあ、みなさん、この映画は誰が誰のために作ったのかわかりません。でも、いままで紹介した映画をみたくてもなかなかレンタル店においてないようなマイナーな映画が多かったと思いますが、この映画はわりと観ることが出来るはずです。みんなでお酒をのみながら観るのにピッタリですよ。いつか無人島にながされたときのためにも、マストバイ!