あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

ほぼ誰も知らない邦画 20連発!「金髪スリーデイズ35℃」(2003年)の巻

金髪スリーデイズ35℃ [DVD]

 

S原:ほとんどの人が知らない日本映画を紹介するシリーズ、今回はこれですよ。

Y木:夏の映画やな。

 

(あらすじ) 

サマーヌード』の飯塚健監督が、駅員、エリート会社員、No.1ホステス、タクシードライバー、女子高生という奇妙な組み合わせの5人が金髪にして共同生活を送る、3日間の夏休みを描いたロードムービー

同時上映の短編「brother」「ウミガメ」も収録。

 

S原:『なんにもない映画』ってあるやん。とくになにかが起こるわけではない映画。この映画がそれやねん。この映画は、どうも「(監督やキャストの)時間が余ったから」撮ったらしいねん。

Y木:即興的に撮っているってこと?

S原:半分はそんな感じかな。監督と俳優たちとの仲が良いみたいで、合宿気分で撮影したんやろうな。全編にそんな雰囲気がでてる。予算も全然かかってないし、ほとんど大学生の自主映画のノリかもな。だから、映画としてはかなり粗い出来になっている。

Y木:えー学生気分で映画を作られてもなー。

S原:まあ面白ければ何でもええんやけどな。この映画の場合、合宿気分で撮影したことが、良い方向に転がっている点と悪い方向に転がっている点があると思うな。

Y木:そうなんや。

S原:良い点は、なんといっても夏の風景、とくになんにもない田舎の駅とかすごくきれいに撮れている。ぼくは個人的にこんな風景がすごく好きやからここはよかった。夏の光で画面もすごく明るいしな。

Y木:うわーおれは暑い夏に田舎に行くなんて、考えただけで嫌やなー。

S原:まあここは個人の好みかな。あと説明的なセリフもない、40分しかないから、かなり省略していてテンポが良い、最後まで飽きずに観ることは出来る、こういう点も良かったかな。

Y木:ふーん。良くない点は?

S原:ずばり登場人物全員に魅力がないこと。どうにも人形みたいなキャラクターばっかりやったわ(笑)登場人物たちはそれぞれ問題を抱えてて、たまたま田舎で出会うという設定やねん。ストレスがある都会から田舎にやってくるわけやな。

Y木:主人公は?

S原:主人公はこの田舎に住んでいる女の子。でも、なにがしたいのか観客にはわからん。田舎に住んでいる女の子が、突然現れた訪問者たちと交流するわけやから、もっと心の変化があると思うんやけどな。なんか傍観者のような立ち位置で、何を考えているのかわからん主人公やったな。

Y木:でも、そういう映画でしょ?なんとなくのんびりと夏が過ぎていく…みたいな。とくにシリアスに描かんでもええんとちゃうの?

S原:ちょっと淡泊すぎて、印象に残らなすぎる…群像劇といえばそうなんやろうけど、1人でもええから、「中心」になる人物がいないと物語は弾まん。タイトルにもある「金髪に染めるという行為」も、登場人物にとっては理由はないねん。しいていうなら、なんとなくかな。映画的には、ええ年した大人が髪を金髪に染めるという行為が(ストレスを抱えた)日常からの解放になるという意味やろうけど、ぼくはとくに何も感じんかったな。一番残念なのは、たった3日間で離ればなれになる(おそらく、もう二度と会うことがない)という限定した「夏休み」であるという設定が上手く伝わらないこと。「3日間だけの大人の夏休み」を淡々と過ごしながらも、どこかで人生の辛さや哀しみなんかが見え隠れすると印象に残ったと思う。

Y木:えー、この監督の狙いはちゃうやろ?なんかおまえの好みのストーリーを話しているだけとちゃうの?

S原:あーそうかもな…(笑)ほかの人の感想も聞いてみたいけどなー。でもこの映画を観たことのある人はほとんどいないから。ほとんどネット上でもレビューがない(笑)

Y木:ま、普通の人はレンタルでも借りないやろうな。有名な俳優が出てるわけじゃないし。

S原:一応、あの「狂い咲きサンダーロード」の山田辰也とか、きたろうがでてるんやけどな。でも俳優が有名でないのは、ぼくは長所になると思ってるねん。

Y木:予備知識がないから、かえって良いってこと?

S原:そうそう。演技が上手いとかでなくて、そのままの役のキャラクターに見えるときがあるやん。ああいうのは無名なのが武器やと思う。武田鉄矢はどんな役をやっても武田鉄矢にしかみえないやろ?(笑)

Y木:たしかにな。じゃあ、この映画では俳優たちはどうやった?

S原:うーん、まあまあかな。残念ながらキャラクターそのものには見えんかったな。なんというか「マイナーな俳優が演じている」という感じというか。ルックスとかでなくて、なんというんかな、ほんまに田舎に逃げてきた人達って感じはしないねんな。

Y木:えーそれってやっぱり演技が下手なんとちゃうの?

S原:いやー、なんかちゃうような気がする。これは俳優の問題でなくて、やっぱり演出の問題やと思うねんなー。それともこの監督の資質かもしれん。このDVDでは短編映画の「brother」と「ウミガミ」も収録されてて、そっちをみると映像中心で組み立てている感じで、この監督は人間ドラマとか興味がないのかもしれんと思ったわ。どの作品も遠景で人物を捉えるショットが印象に残るけど、逆に言えばそれしか印象に残らない…(苦笑)

Y木:映像重視の監督か。まーそういうヤツはおるやん。

S原:だからこの監督には、小さなトラウマを抱えた大人たちの「夏休み」という題材は合わんのとちゃうかな。自分で脚本も書いてるけど、自分の個性と映画の目指す方向が一致していないといえばいいのか…

Y木:この監督にとっては、田舎の風景と人物さえ撮れればよかったんとちゃうの?

S原:そうかもな。たしかに絵葉書みたいなショットで、金髪の大人が並んで歩いてる場面は印象に残るから。でも、そこだけではやっぱり物足りないわー。

Y木:ミュージックビデオみたいな感じ?

S原:たしかにきれいな自然に軽快な音楽が流れる場面は多いけど、ミュージックビデオにもなりきれていないというか。

Y木:おまえの話を聞いてると、中途半端ってことやな。

S原:そうそう。どういえばいいのかな。大人になったらよく分るけど、みんなそれぞれ多少の苦労や苦悩を抱えながら生きてるやん。そういう生活から、3日間でも逃避するわけやから、もっと大人の観客の心情に訴えることができたはずやねん。ここが上手なら、ラストで別れるときにグッとくる場面になったはずやし、ひょっとしたら「隠れた傑作」になったかも、と思うだけに惜しいなあ。

Y木:あーでも大人は、こんな映画は観ないんとちゃう?作った人たちには悪いけど、普通に考えてレンタル店で借りようと思わんもん。

S原:たしかに、そうかもなあ…でも良い場面もあるねんで。夏の定番の線香花火の場面とか、なかなかええねん。「夏になると、なにか起きると期待してしまう。でも結局なにも起こらない」とか、なかなか良いセリフもあるねん。

Y木:まあ観てないからわからんけど、なんか今回はおまえのコメントには、違和感を感じるなあ。なんか監督が求めている方向と違う方向で評価してる感じがするわ。単に自分の好みを押し付けているだけというか。

S原:そうかもな。そもそも監督がどの方向に行こうとしたのか伝わらなかったから…(苦笑)

Y木:じゃあ、やっぱりダメ映画やん(苦笑)

S原:でもダメな映画と切って捨てることも出来ないのよなー。不思議な映画やわ。

Y木:なんか今回はかみ合わんな…

S原:さあ、みなさん、この映画は決して完成度は高くありません。マストバイとは言えませんが、妙に印象に残ります。真夏の田舎の広々とした風景、駅舎、蝉の声、線香花火、ブリーチで髪を染める、4人乗り自転車で田舎道を疾走、という要素が好きな人は観ても良いと思います。そういうのが特に好きでない人はスルーしたほうが無難でしょう。いやー、なんともいえん映画やったなあ……