(ヤクザ映画10本ノックを終えて)
S原:いままでの総括というと大げさやけど、今回、はじめてちゃんとほぼVシネマみたいなヤクザ映画を10本みたので、まとめて少し話をしようかな。
Y木:べつに要らんよ、そんなん。
S原:えー…10本も観て大変やったのに…ちょっとは聞いてよー。
Y木:知らんがな。好きで観たんやろ。
S原:まあ、10本を観た感想を言うとやな…
Y木:なんやねん、結局話すんかい。
S原:10本のなかには面白いものも、イマイチなものもあったわ。
Y木:当たり前やがな。
S原:まあ、なんというのかな。様式美ってあるやん?
Y木:様式美?
S原:たとえばメタルって大体似てるやん。ルックスはロン毛やし、ボーカルは高音やし、ギターの厚みを生かしたフレーズやし、ギターソロはテケテケしてるし(笑)そういう音ってほとんど同じやん。
Y木:そうやな。
S原:スペースオペラもそうやろ。宇宙海賊みたいなやつはいるし、白人金髪のグラマーな女性がでてくるし、主人公はかっちょい宇宙戦闘機に乗ってるし、酒場には動物みたいな宇宙人がカウンターで酒を飲んでるし、左手には銃が内蔵されてるやん。
Y木:そりゃ「コブラ」や。
S原:でも、マニアはそういうおなじようにみえてても、きちんと細かい差異を区別できるし、その意味も考えてるやろ。
Y木:いや、考えてないんとちゃう?(笑)
S原:そういわれると話が終わってしまいます(笑)まあ同じような狭い世界で、ひたすら突き詰めて磨いていくという話をしたいんやけどな。
Y木:要するに、ヤクザ映画はマニア向けってことね?
S原:残念ながら、そういわざるを得ないなあ。
Y木:職人技のように、どんどん突き詰めていく感じ?
S原:いやー職人技にしては、ちょっと作品としては雑やと思うなあ…(苦笑)さっきも言ったけど面白いのもあるねんで。すこし整理して表彰すると、
〇単純に(正統派に)面白かったで賞 → 「炎と氷」(竹内力、宇梶剛士主演)
〇変化球だけど楽しかったで賞 → 「海賊仁義」(小沢仁志主演)
〇ストーリーがストレートすぎるで賞 → 「不動の仁義」(白竜主演)
〇単純やけど、渋い演技は楽しめるで賞 → 「除籍 血濡れの怪文書」(今井雅之主演)
〇もっと変化球なら面白くなったはずなのに…惜しいで賞 → 「抗争の挽歌」(原田龍二主演)
〇もしかしたら傑作になったかも…惜しいで賞 → 「実録 闇のシンジゲート」(永澤俊矢主演)
〇ヤングな感じが好き嫌いがあるで賞 → 「頂点(てっぺん)」(波岡一喜主演)
〇正直に言ってイマイチやったで賞 → 「最後の神農(テキヤ)」(哀川翔主演)
〇主演もミスマッチやし面白くなかったで賞 → 「実録愚連隊の神様 万年東一」(宅麻伸主演)
Y木:なんやねん、〇〇で賞、って子供向けの表彰状やがな。
S原:いやーわかりやすいかな、と思って。
Y木:べつに分かりやすくないわ。適当に一言コメントを書いてるだけやないか。というか、これを読めばもう本文(10本ノックの回)は読まんでもええんとちゃうの?
S原:えー…苦労してブログにUPしたのに(苦笑)
Y木:これから一言コメントだけにしたら?もっと人気がでるかもよ?(笑)
S原:あーん、つれないお方!
Y木:なんやねん。
S原:さっきも言ったけど、やっぱりヤクザ映画ならではの世界というかルールみたいな様式があってな、それを楽しめるかどうかやと思う。
Y木:ヤクザのルールではなくて、「ヤクザ映画のルール」ってことやな?
S原:そうそう。あとは、やっぱり主演(男優)をいかに格好よく撮れるか?がポイントとちゃうかな。
Y木:まあ主役を観る映画やろうしな。
S原:うん。でも、主役を輝かすにはやっぱり脚本・演出は大事やで。いかに主役が演技を頑張っても、演出がダメならお笑いコントになってしまうから(笑)
Y木:なるほどな。
S原:あなたも「ヤクザ映画」って観ないやん?やっぱりそういうルールみたいなものに拒絶反応があるんとちゃうの?
Y木:そうやな。もっと単純に言うと、ほんまに観る気が起こらない…(苦笑)
S原:そういう人は多いやろうな。拳銃とかドラッグとか、いかにも「ヤクザ映画」って感じのシーンがあるやん。やっぱりマニアでない人は、あれに抵抗があるんとちゃうかな?
Y木:あ-そうかもな。
S原:ぼくもそうやったからなあ…いや、今でも同じかな。例えば指を詰めるシーンとか、ドスをふりまわして突入するとかあるやん。今回、まとめて観たけど、どの映画もそういう要素の扱いがどことなく「軽い」気がするねん。
Y木:軽い?どういうこと?
S原:何ていうんかな。拳銃とかドスとか実際はもっと隠すやろし、警察も取り締まるやろ?
Y木:リアルじゃないってこと?そんなん言うたらこの手の映画は観れんって。
S原:いやリアリティを追求するわけでなくて、ほんまに拳銃を使う時はちゃんと筋道立てて、というか演出として「拳銃を使う」という納得できる背景がないと、やっぱり違和感があるねん。撃つ前をきちんと描いたほうが、いざ撃つときの場面が効果的やと思うねんけど、ちょっとな…
Y木:演出が下手ってこと?
S原:下手というか…拳銃とかはやっぱり非合法なものやし、こういう人種の人が使うもんやん。そういう「重み」みたいなものがあると、もっと物語としては面白くなるはずやのになあ。観ている人に対して説得力がないまま物語がすすんで最後にいくら「オンドリャー!」って真剣に怒鳴ってもなんか軽くみえてしまうねんな。
Y木:なんとなく分かるような気がする。
S原:「実録 闇のシンジゲート」では、『ヤクザたちが水に濡れたトカレフを、みんなで必死に拭いていく(商売品やから)』という場面があって、そこを褒めたんやけど、あれは(非合法でも)取引を成立せないといけないという切羽詰まった状況やから、観ていて面白く感じると思うねん。取引が失敗したら大損するし、ひょっとしたら相手側に殺されるかもしれんしな。
Y木:うーん、言わんとすることはわかるけど、製作者側からすると、はじめに言った「様式美」を押さえてるからOK、という考え方なんとちゃうの?
S原:そうやねん。結局、ヤクザ映画では拳銃を撃つもの、ドスをもってケンカするもの、組事務所で凄むもの、素人をだまして金を巻き上げるもの、裏切ったやつらには復讐するもの……ということになってるねんな。でも、そういう昔からある「様式美」を踏襲しすぎやと思うねんけどなあ。
Y木:だから、おまえにとっては変化球の「海賊仁義」とか「抗争の挽歌」が面白いってことやろ?でもなー、どこかの回でもそんな話になったけど、そういう「ヤクザ映画のいままでの要素」を踏襲した映画を作るのが目的なんやろうって。とくに新しい要素なんか要らんのでしょ。だって「男がつらいよ」は毎回ほとんど話は同じやん(笑)
S原:ワンパターンの美学ってことか。たしかに小津安二郎も晩年は同じような話ばっかりやったけど、ファンはおるからな。ということは、このままでええんかな?
Y木:ええねんって。
S原:そうか。
Y木:おまえみたいに、新しい要素をいれるような未来志向でなくてもええねん。ヤクザ映画は、固定した製作者が固定したファンのためだけに作りつづけていく世界やねん!
S原:あー。なんか場末のスナックみたい。
Y木:たしかにな。常連がいる限り潰れない(笑)
S原:ということは、製作側もファンもだんだん一緒に年をとっていくねんなあ。こういうところにも、少子高齢化社会の影響があるよなあ…(遠い目)
Y木:なんか違うような気がするけどな、めんどくさいからもうええわ(笑)ところで、これからも、もっとヤクザ映画を観るの?
S原:いや、もうええわ。