S原:ヤクザ映画10本ノック、今回はこれです!
Y木:海賊…?
(海賊仁義のあらすじ)
『SCORE』の監督・主演コンビ、室賀厚と小沢仁志がタッグを組んだ極道アクション。荒巻組若頭・矢吹は、組の守護石“ムルトギ”を持って消えた組長の息子・正彦を捜しにマニラへと向かう。無事に正彦を見つけ出すが、何者かに“ムルトギ”を奪われて…。
(実録愚連隊の神様 万年東一のあらすじ)
“愚連隊の神様”と呼ばれた伝説のアウトロー・万年東一の半生を描いた宮崎学の長編小説を映像化。大物政治家を襲撃し、右翼とヤクザの両方から一目置かれる男・万年東一。東京を飛び出し上海へ渡った彼は、大陸のならず者たちと命懸けで渡り合う。
Y木:今回は、なんでこの2本?
S原:DVDの裏面のあらすじ(上記)をみたら、両方とも海外(日本国外)というのがキーワードになってるから、まとめたんやけどな。「海賊仁義」はマニラ、「実録愚連隊の神様 万年東一」は中国が関係するねんけどな。結論から言うと、この2本は対極的やったな。
Y木:対極?両方ともヤクザ映画やのに?
S原:そうなんやけどな。「海賊仁義」は、日本のヤクザがマニラに行って冒険活劇をする。一方の「実録愚連隊の神様 万年東一」は、戦前戦後の裏社会で暗躍した実在のアウトローの人生を描く。ストーリーもさることながら、作品のカラーも演技も演出も全然ちゃうねん。
Y木:どっちがおもろかった?
S原:こればっかりは好みやろうけど、ぼくは「海賊仁義」のほうが楽しかったな。もちろん完成度云々という作品ではないけどな(笑)
Y木:それはわかる(笑)
S原:「実録愚連隊の神様 万年東一」は、ちょっとなあ…なんか内容が薄っぺらいねん。たぶん長いシリーズにするつもりで、これは序章という位置づけとちゃうかな。全然話が進まんうちに終わってしまった。
Y木:じゃあ「海賊仁義」のほうから話してよ。ヤクザが海賊になるの?
S原:最後に3分くらい、海賊になって暴れるシーンがあるだけ(笑)実際はヤクザがインディ・ジョーンズみたいなことをする、という感じかな。
Y木:インディ・ジョーンズ?
S原:組長の若頭(小沢仁志)が、組長のドラ息子(大沢樹生)とオパール石(ムルトギ)を探しにマニラに行くねん。なんとか、息子とオパール石を見つけて、やれやれ…というところで、反政府軍グループ(ゲリラ)に宝石を奪われてしまう。いろいろあって隣国の紛争地帯にいくことになって、そこで政府軍と戦って大暴れ、って感じやな。
Y木:もしかして、オパール石を探すために、インディ・ジョーンズみたいな探検するの?
S原:正解。セスナ機にのったら、これが罠で操縦士がさきに飛び降りてしまったり、洞窟に入ったら、足を踏むの場所を間違って穴に落ちかけたり、石製の扉がゴゴゴと閉まりかけたりする。さすがにトロッコはでなかったけど(笑)
Y木:ふーん、なんかあんまり面白くなさそう…(苦笑)
S原:たしかに物語は陳腐かも…まあそういうレベルの映画ではないんやろな。小沢仁志がヤクザの仁義を守りつつ、現地の部族とともに戦っていく、というのがポイントやろうな。最後は戦車もでてくるし、爆破シーンも派手やし、海外撮影の長所もでてると思う。
Y木:海外ってどこ?マニラ?
S原:フィリピンらしい。アクションで少々無理をいっても、撮影できてしまうというお国柄やで(笑)しかも小沢仁志のあいかわらずの暑苦しい感じが、アジアの湿気が多い場所にピッタリ(笑)、大沢樹生も、組長のバカ息子って感じがよくでてる。こいつはノー天気で危機になっても軽口をたたくから、ちょうどよいコメディリリーフになってるねん。全裸でフルチンのシーンもあるから(笑)あ、この日は元・光ゲンジのメンバーね。
Y木:元ジャニーズが、フルチン(笑)
S原:ただなあ、唯一の女性キャスト(天川紗織)がちょっとなあ…反政府組織のなかに、日本人女性がおるという設定なんやけど、セリフが変やねん。
Y木:セリフが変?
S原:うーん、モデル出身らしいけど、ちょっと荷が重かったんとちゃうかな。ファンの人には悪いけど、演技以前にセリフがどうにもこうにも「棒読み」やねん。役柄としては、どうしても物語の背景をするセリフが多いから、しゃーないとは思うねんけどな。この女性は現地の事情をよく知っているし、主人公たちが探しているオパール石にまつわる部族の言い伝えもしっているから、主人公たちに説明するねんけど、なんか説得力がないから、その分チープに感じてしまう。そこはもったいないと思ったな。
Y木:なるほどな。
S原:ヤクザ映画というにはかなり異色作やと思うけど、まあでも結構面白かったで。浮世離れした破天荒なストーリーも、マニラが舞台ということで、あんまり違和感がないし、なによりもB級ならでは疾走感みたいなものが充満してるねん。
Y木:勢いというか、ヤケクソというか?(笑)
S原:そうそう。でも一応ちゃんとストーリーもつながっているし、まあ海外での撮影は苦労もあったろうし、話もちゃんと終わるしな。一般には全然知られていない映画やけど「努力賞」をあげてもええかな。
Y木:ほー。じゃあ、「実録愚連隊の神様 万年東一」は?
S原:正直に言ってイマイチやった。今回の10本シリーズの中で一番退屈やったわ…丁寧に撮影しているし、セットもキャストもちゃんとしているのに、どうにもキャラクター、とくに主人公が魅力的でないねん。
Y木:ヤクザ映画の主人公なんて、どれも一緒やろ。
S原:ぼくも観る前はそうぼくも思ってたんやけどな。でも実際に観ると予想以上にバラエティがあるねん。でも共通して「必要な要素」があると思うねん。
Y木:必要な要素?
S原:主人公の魅力やと思う。主人公がどんな人間なのかがわからんと、やっぱり観客は面白くない。この手の映画では、主人公の行動原理というか動機が大切やと思うねん。
Y木:そりゃそうやろ、だいたいヤクザ映画って、観客が主人公と同じ感情を味わってもらってなんぼ、でしょ。
S原:そうそう。この作品の主人公、万年東一は実在の人物で、かなりの豪傑やったらしい。「ヤクザ」でなく「愚連隊」を率いていて、金には執着せず「筋」を通す任侠人ということらしい。めちゃくちゃケンカが強くて、右翼からもヤクザからも政治家からも一目置かれている存在やったらしい。
Y木:へー。そういうキャラクターなら、いくらでも面白くなりそうやけどな。
S原:主演は宅麻伸。やっぱりミスキャストとちゃうかなあ…いくら凄んでもサラリーマンヤクザにしかみえないし(笑)
Y木:まあそうやろな。
S原:さっきも言ったけど、実在の万年東一はすごいエピソードの持ち主のはずやのに、今回は出し惜しみしたんかなあ。とにかくエピソードも小粒やし演出も平坦で、とにかく盛り上がらない。敵対するヤクザ達の会合に正装して、タイの尾頭付きを持っていく乗り込んでいく場面なんか、もっと緊張感があってもええのに、なんかのっべりとしてるねん。
Y木:のっぺりって。
S原:いま思い出しても、なんか印象に残るエピソードがなくてなあ。自分の部下に惜しげもなく札束を渡す場面とか、自分の部下が(早まって)組長を銃撃したあとに、強引に手打ちにもっていく場面とか、なんか淡白でつまらんのよ。このシリーズでも取り上げたけど、今井雅之や白竜や小沢仁志やったら、もう顔面からして暑苦しくて、会話する場面だけでも湿度があがるやろ?
Y木:みてないから、わからん。それに湿気の多い映画なんて、いややなー(笑)
S原:あ、いま思ったけど、やっぱりヤクザ映画は「湿度を観る映画」とちゃうかな?
Y木:うーん、そうやろうか、そうなんかな。
S原:ムシムシしてたまらんとか、湿気はあるけど風が吹いていて意外と過ごしやすいとかあるやん。やっぱりそういうことやで。
Y木:なんかよくわからんけど、おまえが納得したんならそれでええわ。
S原:さあ、みなさん。ヤクザ映画という色眼鏡を外せば、「海賊仁義」は十分に楽しめます。万年東一と言う人物に興味がなければ、「実録愚連隊の神様 万年東一」はキツイでしょう。さあ、次はどんなヤクザ映画がでるのか?カミングスーン!
Y木:あーヤクザ映画ばっかりで疲れた。しばらく休憩したいわー(苦笑)